鍼灸師はICTをどのように活用すべきか?~令和時代に生きる鍼灸師のIT戦略~

更新日:2020/06/16

第2回:ウエアラブルデバイスを活用する

20200616

 鍼灸の今後にとって、電子カルテを用いた情報共有が大切になると考えています。そして、その情報は、鍼灸師が診断や治療などのツールとして活用するだけではなく、医療全体の情報コミュニティの中で活用されることが重要であり、そのためにも活用しやすいデータを収集することが必要になってきます。活用しやすい鍼灸の診断・治療情報を収集するための方法の1つとして、ウエアラブルデバイスという技術の利用が有効でしょう。
 ウエアラブルデバイスとは、腕時計などの端末から生体情報をリアルタイムで継続的に記録するシステムです。現在では洋服や靴などからも生体情報が取得できる仕組みが開発されており、歩行数や消費カロリーはもちろんのこと、心拍数や体温、血糖値、さらにはそれらの情報から計算される睡眠状態やストレス度など、多種多様なデータが計測可能です。さらに2020年に5Gが解禁になり、身体のあちこちにつけられたセンサーから同時接続で大容量の生体情報が、低遅延で収集できるようになりました。これらの情報と東洋医学の情報を重ね合わせて利用することができれば、より正確で信用のあるデータを集めることができます。
 舌の色や形、筋肉の硬さなど、東洋医学では意味があっても現代医学ではその意味や信頼性がわかりにくかった生体情報も、ウエアラブルデバイスからの大量データと同時接続で解析することができれば、どのようなときに舌の色や形、筋肉の硬さが変わるのかという信頼できるデータになります。さらに、その情報を用いて判断される東洋医学的な診断(証)にも、現代医学的な意味づけがなされ、生活に密着したデータ(生活ログ)からよりいっそう正確な東洋医学的な診断を予想することが可能となります。そうすれば、東洋医学的な診断も脈やツボの反応のような一時点の情報だけで判断するのではなく、より日常に近い状態で証を判断することが可能となり、予防や未病における診断精度も高まる可能性があります。
 このウエアラブルデバイスの情報が、電子カルテの中で東洋医学的な情報を融合し、医療の中で活用されれば、東洋医学的な診断が行えない医師でも、ウエアラブルデバイスの情報をベースに東洋医学的な見地から身体の状態を予測し、予防や治療を積極的にアシストすることも可能です。このように、ウエアラブルデバイスから記録される日常生活から収集された情報は、、東洋医学が得意としてきた「未病の状態を見つける」という部分をアシストしてくれる可能性が高く、東洋医学の新たな活用の方法として広がるものと思われます。
 ウエアラブルデバイスは、今まで経験的に判断してきた東洋医学的な診察に西洋医学的な意味づけを付加してくれる強力な武器であるとともに、その情報を医療の中で共有することができれば、東洋医学の守備範囲を拡大できる可能性があり、未来の医療の形を変えることができるかもしれません。さらに、ウエアラブルデバイスの情報の精度が上がれば、アプリを介して身体の状態を判断し、治療院や病院へ行く適切な時期を判断することが可能となります。そうなれば、鍼灸医療は患者の希望、言い換えれば好き嫌いで決められてしまう「好き嫌いの医療」から、身体の総合的な判断で鍼灸の必要性を訴えることのできる「攻めの医療」へと転換していく可能性もあります。ウエアラブルデバイスはそんな可能性をひめた素晴らしい技術であり、我々がどのように使いこなすかで、今後の鍼灸の現状を大きく変えるかもしれません。

明治国際医療大学
伊藤和憲