本日のお品書き

更新日:2020/12/8

鍼灸師という仕事~クラシックでクリエイティブ 六棹「陰陽五行をみる」

20201208

「治療」という言葉を理解し実践する方法は、鍼灸師によって随分と違います。病院と連携を組んでいる人は西洋医学的な、つまり一般的な意味でいうところの「治療」を意識しています。今抱えている辛さから解放されることは、患者さんが第一に望むことです。

 ボクも含めた古典系の鍼灸を提供している人は、もう少し「生き方」に近いような意味合いで「治療」を提供しています。それは、鍼灸学校に入学してすぐに学ぶ「五行色体表」という形で、知ることができるでしょう。「色」という漢字には、自然と感じられる雰囲気という意味があり、「体」には本来の特徴という意味があります。五行色体表とは、全ての物事から5つの特徴を感じ取るためのヒント集であり、人生の中で出会うヒト・モノ・コトを理解して、バランスを欠いた生活をしないように整えることができるのです。

 陰陽五行思想というルールの中で作られた日本の伝統文化には、すべからくソレを感じ取ることができます。例えば、普段TVで観ている相撲は前漢時代に編纂された『淮南子』に記してある「天円地方」に従い、盛り土(黄)で四角い土俵場を作り、土俵で円を描くことで陰陽を表しています。土俵場の上にある吊屋根には、四房(青・赤・白・黒)が掛けてあり、四神と四方を表しています。

 もちろん、茶道や華道も陰陽五行のルールに従った取り決めがあります。 自然のルールを「見える化」し、無理のない作法や所作を身に付けることで、ヒト・モノ・コト、そしてジブンと向き合う修養となります。

 ご縁があって、ボクが3年ほど前からお稽古に通い始めたのが、華道・未生流笹岡のお家元。行儀作法を学ぶために茶道のお稽古に行く鍼灸師は多いけれど、残念なことに華道ってあまり聞きません。でも実際にお稽古を始めて思うことは、「鍼灸の学びに直結している!」ということ。

 手元にある花が右を向いていたり、少し萎れていたり。枝ぶりが良かったり、なんだか散漫だったり……。そんな個性的な枝花に陰陽五行の手を加えることで、自然の法則が浮き彫りになります。その「型」が花器の中でピシッと具現化した時の清々しさは、筆舌にし難い感動が沸き起こります。自然を自然のまま愛でることも美しいけれど、枝葉を切り落とした先に自然のルールを見つける対話の時間が、華道の醍醐味なんじゃないかしら?

「気付けば余計な荷物を両手いっぱいに抱えてしまっている人生だけれど、本当に大切なものは少しだけ」

 鍼灸院へ来院していらっしゃる患者さんも、不調という荷物をたくさん抱えてくるけれど、身体の状態を最大公約数的に表現するならば「証」、そこに陰陽五行の手を加えるのが「本治法」。

 鍼灸師の施術もいろいろあるし、患者さんの病態や体力の状態もいろいろ。 今、目の前にいらっしゃる方の生命を輝かせるためにできることはそれほど多くはないけれど、方向性を間違わなければきっと然るべき結果に至るはず。 そう信じて、日々の臨床に携わらせていただいています。

鍼灸Meridian烏丸
中根はじめ