地域包括ケアシステム

更新日:2020/12/15

第2回:心構え

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出典:平成28年3月 地域包括ケア研究会報告書より

 「地域包括ケアシステムの植木鉢」をご存知でしょうか。地域包括ケア研究会というところで図案化されたものですが、webで「地域包括ケア」と検索をかけると簡単に見つけることができる図です。この植木鉢は大きく4つの要素で構成されています。自分なりに解説を加えます。

まず鉢には「すまいとすまい方」とあり、これは自身の生活の拠点を表します。戸建てや集合住宅など様々な住居がありますが、この住まいの形によってそこでの生活も影響を受けます。すまい方とは、独り暮らしや夫婦、子供、親などとの同居など世帯の形を表しています。以前は三世代同居のサザエさんのような世帯が珍しくありませんでしたが、今は未婚率が高くなったり、核家族が増加しているなど、時代により世帯の形も変わってきており、高齢期ではその影響を受けやすいと言えます。

次に葉っぱと土ですが、葉っぱは基本的に専門職を意味しています。鍼灸師も資格としてはこの葉っぱに属するのかもしれません。また、三つの葉っぱは茎で繋がっており、各専門職の連携、多職種連携を意味していると考えています。土は「介護予防・生活支援」となっていますが、介護予防とはデイサービスで行われるような機能訓練(鍼灸師も機能訓練指導員になれるようになりましたね)だけでなく、地域社会に参加することで活動性を保つというような包括的な意味での介護予防だと捉えています。

最後はこの植木鉢の皿である「本人の選択と本人・家族の心構え」です。私は理学療法士として高齢者と多く関わるようになり、特にこのお皿の大切さを意識するようになりました。病院、施設、在宅で様々な事例を経験する中で、患者である高齢者本人も、また、その家族も、「心構え」ができていないことが問題となる場面を多く見受けます。例えば、肺炎や外傷後の廃用などでほぼ不可逆的に動作能力が低下し、以前と同じような生活を送れない状況になっても、本人や家族がそのことを受け入れられずに、現状の能力に合わせた住まいの改修、訪問看護や訪問介護など社会的資源の活用を頑なに拒むことがあります。当事者にとってはまるで急に老いがやってきて、想定外の事態が起こったように感じているのかもしれません。地域で暮らす人の多くは、高齢期の課題を教えてもらったり、それについて考えるような機会はあまりありません。ほとんどの人は、高齢期を迎えると、自身や家族にどんな問題が生じるかを知らないのです。医療分野の専門職といえる鍼灸師の私も、恥ずかしながら知りませんでした。最近、主に終末期をイメージした内容ではありますが、ACP(Advance Care Planning)、人生会議というものが広まりつつあります。もしもの時、自身で意思表示ができない場合などを想定して、大切にしていることや、その際に望む医療処置などを自分自身で考え、家族や信頼できる人と事前に話し合っておくことを意味しています。地域包括ケアでの「心構え」はもう少し広義と言えますが、自身や家族に将来起こり得る事態、つまり老いや死を知り、準備をしておくこと。これが地域包括ケアで構想される「心構え」だと私は考えています。

 高齢期の患者を診る鍼灸師はもちろんのこと、若年層をメインターゲットにしている鍼灸師であっても、クライアントが高齢期を迎える家族のことで悩んでいるなんてことは少なくないはずです。高齢者本人やその家族の心構えの前に、専門職である鍼灸師も「心構え」が必要ではないでしょうか。

穴田 夏希(あなだ なつき)
2006年明治鍼灸大学卒業。鍼灸師、柔道整復師、理学療法士資格を取得。病院のみならず、訪問鍼灸、訪問リハビリテーション、整骨院、デイサービス、老健と多様なフィールドを経験しながら、多職種連携や地域包括ケアシステムをテーマに講演活動も行っている。