鍼灸師はICTをどのように活用すべきか? ~令和時代に生きる鍼灸師のIT戦略~

更新日:2020/07/14

第3回:オンライン配信が何故注目されるか?

20200714

 ここ最近、新型コロナウイルスの影響もありオンライン配信が注目を集めています。
 オンライン配信には、こちらが伝えたい情報を写真や動画などを使って一方的に配信する一方向性のものと、配信しながらユーザーとともに議論しあう双方向性配信のものの2つに分類されます。

 一方向性のオンライン配信は、配信者が必要と思う情報を一方的に配信し、視聴してもらうシステムです。そのためいつでも簡単に自分の思う情報を発信でき、視聴者もいつでもどこでも見られることから、手軽で簡単なツールであり、広告的な要素を多分に含んでいます。一方向性の配信の場合、視聴者数が大きなポイントとなります。視聴者数を増やすために過激な言動や行為を配信することが問題になっており、医療の場合やり過ぎれば品格を下げてしまう結果となります。

 他方、双方向性のオンライン配信には、動画などのコンテンツを作成し、そのコンテンツを元に双方向で会話をする方法とZoomのビデオ会議などに代表されるリアルタイムの対話システムが存在します。双方向性は、一方向性と異なり、会話先の相手のニーズを把握しながら進めることが可能なため満足度を向上させやすいのが特徴です。医療に限って言えば、なかなか診察に行けない場合や、診察中には話しにくいことも話せるなどの特徴があります。新型コロナウイルスの影響でオンライン診療のニーズが加速したこともあり、今後ビデオ通話を用いた診察・処方が一般化してくると思われます。このように、オンライン配信はメリットとデメリットをきちんと押さえて、一方向性と双方向性の配信をうまく使い分けることができれば、とても便利なツールになります。

 そして、オンライン配信による副産物としてもう1つ理解しないといけないのは「オンラインコミュニティ」という新たなコミュニティの出現です。今まで鍼灸のコミュニティは、治療院の中のローカルなコミュニティか、学会や鍼灸師会などの鍼灸業界を中心としたコミュニティが中心で、同じ目的を持ったものが直接対面することで形成されていたコミュニティでした。そのため、誰でも簡単に参加することができず、その広がりには限界がありました。一方、オンライン上では、様々な情報が拡散し多くの人が簡単に情報にアクセスできるため、その情報が気に入ればそこに居座るオンライン上のコミュニティが形成されているのです。これは、多くの人が鍼灸という情報にアクセスするタッチポイントを増やすと言う意味では重要なことです。このオンライン上のコミュニティは簡単にアクセスできる利点がある一方で、簡単に離れることも可能であるというデメリットも存在するため、鍼灸という情報にアクセスしてきた人を業界としてどのように包囲していくのかという課題があります。

 現在、多くの鍼灸師が鍼灸に関する様々な情報を発信しています。そのため、一般の方が鍼灸の情報に触れる機会が多くなったことも事実です。しかし、その一方で情報の信憑性をどのように担保するか、その情報からさらに深い他の情報にリンクさせることができるのかが、ユーザーをコミュニティに根付かせるための勝負の分かれ目なのです。一度見切りをつけたユーザーは二度とは戻ってきません。

 また、情報を無料で提供するからには、それをどこかで回収できる場所を設定しないといけませんが、鍼灸師が発信する情報の多くは、回収の場所が設定されていません。そう考えると、回収場所は個人ではなく鍼灸業界全体で真剣に考えなければいけないのかもしれません、早くこのチャンスをものにしないと、ブームは去ってしまいます。

明治国際医療大学
伊藤和憲