鍼灸師はICTをどのように活用すべきか? ~令和時代に生きる鍼灸師のIT戦略~

更新日:2020/06/04

第1回:電子カルテの必要性を考える

20200604

 カルテはなぜ必要なのか?そんなことを考えたことがあるであろうか?
 カルテは本来、自分の診察・治療した情報を記録するためだけのツールでした。そのため、カルテを記録するか、しないかは治療者の意思にゆだねられており、カルテを記載しない先生も多くみられます。しかし、これからの時代において、カルテを記載することにどのように意味があるのかを考えてみたいと思います。
 まず、カルテは電子カルテの開発により、情報を記録するためのツールから、情報を共有するためのツールに役割を変えつつあります。今まで診察や治療の情報やまた治療効果は個人の先生のデータでしかありませんでしたが、電子カルテというツールを使うことで、診断や治療、さらにはその効果に関する情報を全世界から集めることができ、言い換えれば鍼灸治療のビックデータを集めることができます。ちなみに、ビックデータは、実際に治療されている患者さんのデータであり、実臨床でも活用できるためリアルワールドデータ(RWD)と呼ばれ、新たなエビデンス確立の1つの手法になりつつあります。エビデンスは言わずと知れた、医療における通行手形のようなものです。エビデンスがある治療法が医療の中では注目を浴びやすいため、電子カルテからRWDとしてエビデンスを集めていくことで、医療における鍼灸治療の価値を高められる可能性があります。
 そして、もう1つ大切なことは、医療情報コミュニティという新たなコミュニティの出現です。今まで鍼灸は治療院の中のコミュニティ、学会や鍼灸師会などの鍼灸業界としてのコミュニティが中心で、そのコミュニティ内で情報をやり取りしていました。しかし、医療業界では電子カルテを利用したオンライン化に進んでいるため、様々な医療情報を1つにまとめ、活用していくという動きが進んでいます。そのため、医療の現場では情報は1つのコミニケションツールになりつつあるのです。
 そこで、我々が持つ情報をオンライン上に載せ、様々な医療の現場で活用してもらうことができれば、鍼灸の価値は治療手段という枠から、診察ツールやセルフケアツールに役割をシフトしていく可能性があります。そのためには、医師が持っていない様々な身体情報(舌・脈・圧痛・硬結など)や医師が知らない情報(予防時のデータや生活習慣など)を吸い上げ、医療情報として結合させるシステムができれば、地域医療の一翼を担う鍼灸師として、新たに活用の場が広がるのです。しかし、その精度を検証するには、業界としてデータが一元管理される必要があり、その一元管理に電子カルテが必要なのです。
 令和の時代、サブスクリプションモデルに代表されるように、ものや情報は独占から共有にシフトしています。それは、独占するにはコストがかかる上、現代社会ではものや情報は常に溢れ、アップデートしているため、留めておいてもそのものや情報は古くなってしまうため、必要な人が必要なものや情報を活用した方が効率的であり、発展的であると考えるようになりました。これを社会ではシャアリングエコノミーと呼んでいます。
 鍼灸の世界では共有より独占が主流です。鍼灸師が持つ情報や技術も留めておけば古くなる上、他の情報にとって代わられてしまいます。そうであれば、電子カルテを用いて情報を収集し、医療の中でシェアリングしていくことの方が、鍼灸師の生き残る道として大切ではないかと思います。

明治国際医療大学
伊藤和憲