変化する時代に鍼灸師は何をすべきか?

更新日:2020/05/08

第2回:社会構造の変化で問われる鍼灸の本質
   「もの売り」から「こと売り」へ

20200512

 我々が望むか望まないかは別として、社会は確実に変化しています。
まず一番大きな変化は人口構造の変化です。少子高齢化が益々進み、生産人口よりも高齢人口が多くなる、言い換えれば支える人よりも支えられる人の方が多くなる時代に突入しています。そうなると今後は支える人が限られるため、支える内容を吟味しなければなりません。例えば、お店のレジは必要な仕事ですが、人が足りなくなった場合は、機械に任せるという選択肢も必要になります。そう考えたとき、鍼灸師にしかできない業務とは何なのかを考えることが大切です。

 鍼灸師の作業を考えると、例えば問診や選穴などの作業は、ガイドライン化が進めば診察アルゴリズムが作れます。また、検査などの所見に関しては、ウエアラブルデバイスからの日常データとリンクさせることで、脈や舌などの所見すらも自動測定でき、コンピューターの方がより正確に診察・診断できる可能性があるのです。さらに、各組織の特徴を捉えることができれば、エコーガイド下で機械が目的部位まで正確に刺鍼をし、抜鍼をすることも将来的には難しくない技術です。そうなると、鍼灸師が行える作業の多くはコンピューターで代用できることになり、鍼灸院に来院しなければいけない理由は、「治療院でしか行えない感動体験の提供」という顧客満足度体験になるのです。そう考えると、これからの鍼灸教育で一番必要なことは、顧客満足度をどのように上げるのかという「こと売り体験」ということになり、鍼灸治療という技術を提供する「もの売り体験」ではなくなるかもしれないのです。

 さらに、問題なのはコロナウイルスの影響で、この顧客満足度の形も変わりつつあるということです。コロナウイルスが明らかにした事実は、人と人が交わることのデメリットと、直接交わらなくてもできることがたくさんあるというメリットです。人はつながりを求める生き物であることから、人と人が直接つながることはポジティブなことと考えられてきました。しかし、今の社会はテレワークに代表される遠隔での作業やWebシステムを利用した会議、さらには友達や仲間とのWeb飲み会など、直接人と人が会わなくても交流ができ、満足感や感動体験を作り上げることを多くの人が実感したということです。そして、この流れはコロナウイルス収束後も続くと考えられています。そう考えると、コロナウイルスが収束した「アフターコロナ」の時代には、確実に顧客の満足や感動の形も変わり、多様化していきます。そのため、我々鍼灸師は鍼灸治療とは何かをもう一度真剣に見直し、診断や治療技術だけに頼るのではなく、Webでの交流以上に価値の高い満足度や感動体験とは何かを考え、提供しなければならないのです。

 今こそ鍼灸治療の本質を鍼灸治療の技術を売る「もの売り」から、顧客満足度を売る「こと売り」に変化することができた鍼灸師のみが今後長く生き残れていることになるのです。次回は、これからの時代に求められる顧客満足とは何かについて考えてみたいと思います。
 残酷ですが、それが変化の激しい時代に生きる鍼灸師に求められているものなのだと思います。

明治国際医療大学
伊藤和憲