地域包括ケアシステム

更新日:2020/08/04

第1回:高齢者を全人的に捉える

20200804

 地域包括ケアシステムが提唱されてから十数年が経ち、最近では耳慣れた気もしますが、今もなお深化を続けるこの仕組みを知ることは、私たちが生きる社会の課題や、その解決方法を探る手段になります。鍼灸師、理学療法士、柔道整復師として病院、在宅、介護施設と様々なフィールドを覗いてきた立場から、このシステムを説明してみたいと思います。

 地域包括ケアシステムという言葉の起源は1980年代の広島県御調町、現在の尾道市の山口医師が提唱した「寝たきりゼロ作戦」に遡り、国策として打ち出されるようになったのは2008年頃からです。当初から地域包括ケアシステムは、障害者や子育て世代も含めて多様な住民の地域生活を支えるために議論されてきましたが、始まりは厚生労働省の老健局で、介護保険という大きな安定財源のある高齢者ケアから取り組まれたこともあり、高齢者を支える仕組みとして発展してきました。高齢者以外への展開も模索されていますが、現状では地域包括ケアシステム=高齢者を支える仕組みと言えます。

 私が明治鍼灸大学(現 明治国際医療大学)の学生だったころ、東洋医学とは「全人的な医療」だと習いました。全人的な医療である東洋医学が、主に病気(臓器)を診る西洋医学と対比して説明され、それ自体に曖昧な魅力を感じたことを覚えています。ところで、全人的な医療とはどういうことなのでしょうか。

 病を持った人間を包括的に捉えること?包括的って?
 脈や舌を診て東洋医学的に病を解釈すれば全人的?
 ゆっくりと話を聞きながらカウンセリング的な要素があれば全人的?

 全人的医療では患者を診る視点を、身体、心理、社会、実存(実存とはどういう意味でしょう?誰か賢い人教えてください)で説明されることがあるそうですが、こと高齢者においては身体的、心理的愁訴を説明するのに「地域社会での生活者である」という視点が必要だと感じています。高齢期になると、一見当たり前のように思える「住み慣れた場所で自分らしく生きる」ということが難しくなるからです。地域包括ケアシステムはそういった高齢者の課題に目を向け、住み慣れた地域(社会)で、人生の最終段階まで自分らしい生活を継続できるようになることを目的としています。

 社会を形成し、他者や環境と関わりをもちながら生きていく以上、身体や心理の変化を考える上で「地域社会」から受ける影響を念頭におくことは必然です。鍼灸師がクライアントを全人的に捉えるには、愁訴である身体的、心理的苦痛を生み出す社会的背景への理解が欠かせないのではないでしょうか。実際に臨床家の多くは、例えば痛みという苦痛症状が、単に機械的刺激や炎症だけにより説明されるものではないことを知っていると思います。対象を主体的な地域生活の参加者として捉える地域包括ケアシステムは、それこそ「全人的」と言えるかもしれません。

 地域包括ケアシステムを理解することが、私たち鍼灸師の新たな役割を創出するきっかけになると信じ、次回からは本システムの構成要素や、肝である医療介護連携、多職種連携などについて説明していきます。

穴田 夏希(あなだ なつき)
2006年明治鍼灸大学卒業。鍼灸師、柔道整復師、理学療法士資格を取得。病院のみならず、訪問鍼灸、訪問リハビリテーション、整骨院、デイサービス、老健と多様なフィールドを経験しながら、多職種連携や地域包括ケアシステムをテーマに講演活動も行っている。