本日のお品書き

更新日:2020/07/21

鍼灸師という仕事~クラシックでクリエイティブ 四棹

20200721

 4月から始まった自粛生活も一段落をしたかのようでしたが、再び各地でクラスターが発生しており予断を許さない状況が続いていますね。ご存知の通り、アメリカのハーバード大学医学部の予測によれば、世界人口の70%がCOVID-19に罹患する計算だといいます。予防策をとっていれば、ボクも罹患しない30%に入れてもらえるのだろうか…?
 でも改めて考えてみると、罹患しても重症化しなければ、特に問題はないわけで、実際に自覚症状がないまま罹患しているケースも多いと聞きます。軽症で済ませるためには

「①良質な睡眠 ②ストレスを溜めない ③栄養のある食事」

に留意することが大切だと、多くの医師が指摘しています。これ、どこかで聞いたような話だと思いません?

 大きな外科手術や抗ガン剤のように副作用の強い薬の投与を検討する時には、年齢や気力・体力の状態を勘案します。どれだけ医療が進化を遂げても、それらを受け止める身体の状態が予後を決めるのです。
 全世界の鍼灸師がテキストにしている『黄帝内経』は、内因論を提唱した学派の手によって編纂が始められたと言われています。また、玉石混交になっていた明治以降の鍼灸業界に治療のプラットフォームを提示した経絡治療は「すべての病は五臓の虚から始まる」が基本理念になっています。古典に根ざした鍼灸では、元気で生き続けるためには日々のコンディショニング(=養生)が大切だと言っているのです。

 先日、京都にある料理旅館へ立ち寄った際に、お身体を拝見させて頂いている女将さんと一緒にお庭を眺めながら、いろいろなお話しを伺う機会を得ました。燦々と輝く太陽の下、窓と襖をすべて解放して縁側に座っていると、クーラーを効かせなくても涼しい風が流れていきます。
 そもそも日本家屋というものは、夏の暑い陽射しによる空気の対流を利用して、室内の空気を屋外へ吸い出すように造られているのだそうです。部屋と部屋の仕切りは壁ではなくて襖や障子なので、解放させることも自由自在。 そして、基本的に密閉度が低い。

 「こうやって自然の力をお借りして心地良く風が抜ける日本家屋では、3密になりようがないということを、多くの方々がご存知ないようで…」
と笑う女将さん。

 非常事態宣言を経て、厚労省から「新しい生活様式」なるものが提唱されていますが、感染症予防策としてこれまでの習慣を禁止するネガティブな内容です。
これまで物理的な効率を求めて、人を密集させることで出来上がったのが現代社会です。
 でも、時代はハードからソフトへ。GAFAのような情報産業が、自動車会社や鉄鋼メーカーの企業価値を追い抜いています。物理的な効率よりも、質的効率の方が優先される時代へシフトしてしまっているのです。コロナ禍の有無に関わらず、生活様式が変わるタイミングが訪れていたのではないでしょうか?

厚労省が提案する「新しい生活様式」とは、とどのつまり感染機会を減らすための注意事項。気をつけなくちゃならない決め事の多い暮らしが、豊かで幸福な日々をクリエイトするようには思えません。

どうせ新しく刷新するのであれば、少しでも前向きな気持ちで臨みたい。伝統と医療を併せて提供することを専門とするボク達にしかできないことが、きっとあるんじゃないかと思うわけです。

ふと、縁側に佇む女将さんの涼しげな笑顔を思い浮かべながら、「豊かになるための新しい生活様式」を手に入れたいのならば、日本の伝統文化を見直すことが得策だと思う今日この頃。
 巨額の投資によるワクチン開発も必要ですが、ボク達は衣(医)・食・住を見直してスローライフにデザインし直す知恵を引き継いでいます。東洋医学の専門家として、養生による暮らし方の提案ができるボク達の仕事は、臨床だけじゃないんです。

鍼灸Meridian烏丸
中根はじめ