きょうの養生 藍編

更新日:2020/06/11

季節の移ろいと養生的な生活 その2

20200611

 あれから何もかも変わってしまってもう遠い昔のように思えますが、4月上旬、緊急事態宣言が出るか出ないかの頃に2歳の息子が熱を出しました。自主ロックダウンとして自宅で開業している鍼灸院は完全休業として、息子は1週間、同居家族である私は2週間、人に接する外出を避けての生活。息子は高熱と大量の鼻水を出しながらも元気(小児はりをしてきている効果がある!と思っています)、私自身もずっと無症状で、息子が数日で解熱してからはただの春休みのような十日間あまりでした。

備蓄の食材と生協の宅配、近所の人や友人から「笠地蔵」みたいに玄関前に届けられる食べ物で食事をまかない、あとはひたすら家にいて、朝と夕方に散歩に出かけるという毎日。自転車に乗ってうちから5分くらいで南禅寺なので、マスクをして息子を後ろに乗せて行くのですが、ほとんど人とすれ違わず、境内も毎日貸し切り状態。

息子が熱を出した時点で、ここで仕事のことや経済のことやなんかを考えてしまったら、キャパシティの小さい私のこと、必ず気持ちがしんどくなるな…と確信があったので、考え事はすっかり放棄してしまいました。毎日、息子と自分の体調の観察と、炊事洗濯(掃除は適当)だけをやって、テレビやネットも息子といると教育テレビときかんしゃトーマス以外はほぼ見られない。

そんな生活の中で、朝夕にほぼ無人の、ひろびろとしたお寺を散歩。気が上がり、頭の中がいっぱいになりがちな春の養生として「散歩」があげられますが、こういうことか!というスッキリ感を体験しました。先のことを何も考えないで、ただ、もみじの新芽を見たり、水路のカニを探したりして、飽きたら帰る。それ以上のことをなんにも考えない。

患者さんにも散歩をおすすめしますが、なかなかそんな「散歩のための散歩」を毎日に取り入れるのは難しいのも事実です。通勤で歩いたり、ショッピングで歩いたりしているときも、「歩く」という動作はしていて体も使えていますが、行った先で次に何をするか考えていたり次の予定の時間が決まっていたりと頭もしっかり使いながらになっていることも多いでしょう。

忙しい毎日の中では、養生というと、何かをやりすぎてしまったのを、さらに何かを「する」ことでどうにかしようとする考えになりやすいです。脂っこいものを食べたあとに黒いお茶を飲んだり、じっと座ってパソコン仕事で残業してからヨガスタジオに行って動いてみたり。

そういう「足してから引こうとする」よりも、そもそもやりすぎないようにする、という方が、余分がなくて疲れないんだな、と実感しました。毎日の中で、考えたり行動したりしなければならないことの量が多すぎて、その疲れを解消するためにさらに何かすることを増やす…そのやり方はエネルギーの余力がたくさん必要になります。

今回の私の場合「時間あるな〜、今日は何しようかな〜」という日々を送ることになりましたが、そんなことは大げさでなく数十年ぶり。だけどそれは「全く仕事をしない」という条件設定だったので、このまま続けるわけにはいきません。ちょうどいいところを探しながら、新しい生活を作っていっているところです。

安東 由仁(あんどう ゆに)
鍼灸師/日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー。筑波大学体育専門学群、明治東洋医学院専門学校卒。アメフト・サッカーの現場で20年アスレティックトレーナーとして活動した後、京都の町家で「ゆに鍼灸院」を開業。暮らしに根ざした、現実味のある養生を目指しています。2018年生まれの怪力男児を育児中。