きょうの養生 藍編

更新日:2020/05/14

季節の移ろいと養生的な生活

20200514

「築90年ちょっと」と言われてから住みはじめて5年と少しが経ったので、もしかすると、もうすぐ築100年?!になる京町家に住んでいます。

はじめて内見したときは9月の中頃で、今から思えばこの家がいちばん素敵な時期で即決してしまったのですが、住んでみればそんな快適な時期は春と秋に2週間くらいずつしかないのでした。

京都というのは夏暑く冬寒いうえに盆地で湿気がこもります。祇園祭が夏に行われる「疫病封じ」のお祭りであるように、きっと昔は「湿気て暑い」ことのほうが問題だったんでしょうね、家もそれに合わせて、とにかく風通しがよく、熱がこもらないようにできています。「うなぎの寝床」と言われる奥行きの長い建物で日が当たらない部分も多く、さっきよく見たらいい感じの隙間もあいていて風通しがとにかくよく、夏は熱がこもることがありません。お灸の換気もあっという間。

しかしそれはひっくり返して冬になれば「とにかく寒い」に尽きます。土間吹き抜けの台所は暖めることは不可能だし、家の中でも仕切りにかけている布が謎の風でそよそよといつでも揺れていたりして、すきま風というか…そよ風?ぐらいの感じの冷たい風がいつでも吹いています。毎年、灯油の移動販売にお世話になりますが、3月末にさわやかに「今年は今週で終わりですんで!」と言われてから1ヶ月、大型連休あたりまで灯油のファンヒーターを朝つけています。

そんな家で暮らしているので、食養生でよく言う「冬はなま物は避けましょう」「冷たいものは飲みすぎないように」といった話も、正直言って、「そんなこといちいち言わんでも、生野菜食べる気も冷たいもん飲む気もまったくせえへんけどな、冬にわざわざ言う必要ある?」
という感じです。

私も以前は新築のアパートに暮らして、電車で通勤してオフィスで働くという生活をしていたことがあるので、その頃はやっぱり「季節の養生」というのがあんまりピンときてなかったな、と思います。電車やオフィスは、夏に寒かったり冬に暑いなと感じたり、季節と違う体感になることも多いし。

新築の家で暮らしているときは、季節の変化で感じる体の負担は少しマイルドで、たしかに体への負担は小さかったのかもしれません。だけど、この古い家で暮らしていると暑い!寒い!湿気すごい!!がダイレクトに伝わってきます。快適、という点では新しい家の方がもちろんいいに決まっているのですが、自然に近い、というか、季節をしっかり感じている、という点では、古い家での暮らし、私はすごく好きです。寒いと温かいものを食べてしっかり着込んで、夜起きてても寒いので早く寝て活動量が少し少なめ、暖かくなってくると新しいことを始めて動き出したくなる、そういう、東洋医学で勧める「養生」的な生活が季節にすごく合っているということが実感として納得できます。

家に住んでいるのに、ほとんどキャンプの感想みたいになっている、ってどういうことなんや……と自分で自分にツッコミを入れたくもなりますが。そろそろ今年の灯油、買い足すかどうか迷っている春の終わりです。

安東 由仁(あんどう ゆに)
鍼灸師/日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー。筑波大学体育専門学群、明治東洋医学院専門学校卒。アメフト・サッカーの現場で20年アスレティックトレーナーとして活動した後、京都の町家で「ゆに鍼灸院」を開業。暮らしに根ざした、現実味のある養生を目指しています。2018年生まれの怪力男児を育児中。