変化する時代に鍼灸師は何をすべきか?

更新日:2020/05/26

第4回:独占と共有で見えてくる鍼灸師の将来

20200526

 2020年、社会は思わぬ形で大きく動き始めました。
 現在は第4次産業革命の最中です。第4次産業とは、情報通信・医療・教育サービスなどの知識集約産業のことで、その特徴は技術開発を中心としていることであり、物質やエネルギーの大量変化(消費)を伴わないことにあります。そして、その核となる技術が日本では2020年から導入となった5G(5th Generation)です。5Gの最大の特徴は大量のデータが高速度で多数同時接続できるようになることであり、そのため、様々な情報の活用のさらなる加速が予想されていました。当初はこの革命が浸透するには少なくても数年かかると考えられていましたが、新型コロナウイルスの影響により、そのスピードはさらに加速して、すぐに実社会に実装され普及することでしょう。第4次産業革命の特徴が物資やエネルギーの大量消費を伴わないことであることから、「シェアリングエコノミー」という考え方が重要になります。特に「もの」に関しては、すでにシェアリングエコノミーが浸透しつつあり、サブスクリプションモデルに代表される一定料金でものがシェアできるサービスが登場したように、「もの」は所有(モノポリー)から共有(シェア)に変化しつつあります。
 一方、医療はどうでしょう。医療は情報と技術の提供が基本であり、所有が原則でしたが、医師が提供する医療情報は、電子カルテの普及により情報共有されつつあります。また、技術に関してもガイドラインにより標準的な治療が規定され、いつでもどこでも同じ治療が受けられるようになりました。こうした状況下で、医療者は患者を共有するとともに、自分の専門以外の疾患は専門医にゆだねるシェアリング型医療を実現しています。しかし、鍼灸師に関しては、鍼灸師ごとに治療が異なることから情報と技術を共有することは難しく、さらに鍼灸師同士が患者を紹介しあうシステムがないことから、完全なるモノポリー(独占)型医療となっています。
 医療費の削減や患者の負担を考えてもシェアリング型医療は効率的であり、今後は5Gで得られた生活情報を活用して、病気の治療や予防に役立つ新しい診断アルゴリズムが医療情報コミュニティの中で作成されていくでしょう。そして、鍼灸師の得た情報だけを医療内で共有することができれば、いずれどのような状態が鍼灸治療に最も適しているかのアルゴリズムが作成され、医療連携もスムーズに行うことができます。その意味で、これからの鍼灸は患者やデータを所有するのではなく、共有することで、今後の発展が見えてくると思われます。
 共有するものは患者やデータだけではありません。診断方法や治療技術も共有することで、患者ごとに適したテーラーメイドの治療が提供できるようになるでしょう。さらには治療場所や料金決済の方法までシェアすることができれば、鍼灸ファンを鍼灸界全体で守ることにつながります。そのためにも、コロナ時代には、鍼灸業界でも所有から共有へと考え方を転換させ、患者を業界全体で守っていくことが求められているのだと思います。シェアリング鍼灸を実現するにはなにが必要か、鍼灸師自身が目の前にある壁を越えていかなければいけない時がやってきたと言えるでしょう。

明治国際医療大学
伊藤和憲