生殖の追究

更新日:2020/08/06

第1回:卵巣と精巣から見る性差

20200806

 日本では生殖に関する情報をタブー視する風潮がまだまだ存在し、学校で十分な教育が行えているとは言い難い状況です。生殖活動は生命の起源であり、どれほどテクノロジーが進歩しても、なくなることはありません。このコラムでは、人類の根幹をなす生殖活動について科学的に迫りたいと思います。

 卵巣は女性ホルモンを産生することで女性らしい体を形成し、精巣は男性ホルモンを産生して筋骨隆々としたいわゆる男性らしい体を形成します。ホルモンの違いはありますが、卵巣と精巣は非常によく似た働きをする臓器です。しかし、卵子と精子に関する作用については大きく異なります。

 卵巣には卵母細胞という卵子の元となる細胞があり、時間を掛けてゆっくりと成長させていき一周期に1つの卵子が排卵されます。すべての卵母細胞は生まれた時点で卵巣にストックされているため、生涯に排卵される卵子の数には制限があります。また、「年齢=卵母細胞の貯蔵年数」となるため、年齢とともに卵子の質が低下して妊娠率は右肩下がりになることが分かっています。
 現在日本では、5.5組に1組の夫婦が不妊症の検査や治療を受けており、その一因は初婚年齢の上昇による卵子の質の低下と考えられています。アメリカ疾病予防管理センターの発表では、自身の卵子を用いた体外受精の生産率は35歳から大きく低下しますが、ドナー卵子ではその低下が抑えられるとなっています。近年の研究で、慢性子宮内膜炎などの子宮機能による着床障害が不妊症の原因となることも明らかとなっていますが、卵子の質が最も重要なのは周知の事実です。しかし、社会的な理由により晩婚化が進んでいる現状があります。卵子の質は数値化できませんが、血液検査により抗ミュラー管ホルモン(AMH)を測定することで、卵巣内に残っている卵子数が予測できるため、未婚の場合でも自身の状態を把握して人生設計することが一つの解決策になるかもしれません。世界一の不妊治療大国となってしまった日本においては、生殖教育を充実させ不妊症で悩む人を減らす取り組みも必要だと思います。

 一方、精巣は造精機能を有しています。造精機能とは、精巣内のセルトリ細胞が精子を造ることで、精子の数に制限はありません。都市伝説で赤玉が出ると男性の生殖機能は終わりと言われますが、そんなことはなく精巣は生涯に渡って精子を造り続けます。しかしこれは、何歳になっても子供を授かることができるということではありません。男性でここを勘違いしている人は多いと思います。近年、メディアにも取り上げられる機会が増加している男性不妊症は社会的な問題となっていて、不妊症の約半数は男性に原因があることも分かっています。次回は危機的状況にある現代男性の精子について詳しくお伝えしたいと思います。

伊佐治 景悠(いさじ けいゆう)
鍼灸師/博士(鍼灸学) 明治国際医療大学 卒業、明治国際医療大学大学院(博士課程)修了。全日本鍼灸学会で高木賞、WFASでBest Poster Awardを受賞。2018年にSR鍼灸烏丸を開院して生殖領域の疾患に特化した治療を行いながら研究と教育活動にも力を入れている。