きょうの養生 橙編

更新日:2020/05/28

養生をはじめよう

20200528

 今年で鍼灸師になって12年ほどになります。はじめのころはどうやったら治せるのか?という自分の仕事ぶりが考え事の中心だったのですが、最近はむしろ「養生が大事だな」と感じる機会が増えてきました。同じように施術をしても順調に治っていく患者さんがいる一方で、ツボを変えても道具を変えてもうんともすんとも治らない患者さんもいらっしゃいます。私はこの違いの原因のひとつに日常の養生があるのではないか?と考えています。施術がうまくいった時は「ちゃんと養生していてくれてありがとう」です。

  さて、ひとくちに養生といっても種類は様々です。私の院ではお灸、カイロ、足湯などの“温める”こと、睡眠などの“休むこと”、ラジオ体操などの“動くこと”、食事の種類や量などの“食べること”などなど。これらを季節や体質に合わせて実践してもらっています。ひとつひとつの養生はとても簡単なことです。しかし続けていただくとなるとこれがなかなか難しいんですよね。ですから私の興味関心は「どうしたら患者さんが養生を習慣化してくれて自立して健康になって頂けるか?」というあたりにあります。

 弊院で養生指導をはじめた当初のことを振り返ってみます。施術が終わってからA4用紙にびっしりとメモ書きして「ここに書いてあることを続けてみてくださいね」と患者さんを送り出します。これできっと養生を頑張ってくれるはずだと。そして次の予約日に様子を尋ねると「いやあ忙しくてできませんでした」と返事が返ってくるわけです(笑)。

 施術の場合はベッドの横になってもらいさえすれば、どうとでもすることができます。私たちは患者さんが元気になるように施術をしたら良いわけです。しかし養生となると話は別で、患者さん自身に取り組んでもらわなければいけません。このあたりで頭のスイッチを施術脳から養生脳に切り替える必要があると思うわけです。試しに養生を習慣化するまでの流れをまとめると以下のようになります。
養生が習慣化するまでの流れ
①患者さんにとって必要で、かつ実践可能な養生を選択または開発する。
②わかりやすく養生をお伝えして理解して頂く。
③患者さん自身に正しく実践してもらう。
④実践してもらった養生を継続して習慣にしてもらう。

①~④までをこぼさず最後まで送り届けることでやっと養生の習慣が完成します。どんなに素晴らしい技術も実践されなければ無駄になってしまいます。私がこの取り組みをはじめた当初は、恥ずかしながら①②の段階ですでにつまずいていたように思います。各項の詳しい説明は次回以降に譲るとして全体の流れを俯瞰してもらえたらありがたいです。

人同士が直接顔を合わせることが難しくなった今、対面して施術をする私たちの仕事にも大きな変化が訪れています。しかし鍼を刺せなくなっても、灸を据えられなくなっても私たちには養生があるじゃないか。養生を伝える技術というのはこれから益々必要になってくると思います。今までよりもっと“伝わる養生”“あたらしい養生”をぜひ一緒に考えていきましょう。

プロフィール
鋤柄誉啓(すきからたかあき)|鍼灸師。新町お灸堂院長。愛知県生まれ。明治国際医療大学卒。施術の傍らお灸と養生にまつわるプロダクトの開発やブランディングを行う。SNSで養生についての発信。『きょうの灸せんせい(秋田書店)』『ふれあい灸活プログラム(フェリシモ)』監修。